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guest talk "bicara bicara"

bicara bicara(ビチャラ ビチャラ)とは、インドネシア語で
「おしゃべり」のこと。
このコーナーでは毎回ゲストを迎え
モンスーン・ニッポン・プロジェクトについて自由に語り合います。

写真1

マレーシアの熱帯雨林の中で植物を調べる研究者だった足立直樹さんが
帰国後に選んだ仕事は、企業のコンサルティングでした。
熱帯雨林と企業。一見何の関連性もなさそうに見えるこの転身にこそ実は、
生物の生態を研究し見守り続けてきた足立さんの熱い思いが込められています。
そのキーワードは「生物多様性」。
長い年月をかけて進化してきた植物たちの
素晴らしい営みが繰り広げられる森を守るために、
私たちが今すべきことは何なのでしょう?
サステナブルな(長持ちする)社会の仕組みづくりを
目標に活動する足立さんに伺いました。
30メートルを超える巨木が生える東南アジアの森
 皆さんは「ジャングル」と聞くと、頭の中にどんなイメージを描きますか? 頭のすぐ上にツタの絡まる鬱蒼とした木々が生い茂り、極彩色の鳥がたくさん飛んでいたり、背後にはヒョウがいたり。そんなイメージではありませんか? 実はそれはどちらかというと中南米のジャングルのイメージです。日本人の多くがイメージするのは、アメリカの映画やアニメの影響なのか、アメリカから近い中南米のジャングルであることが多いようです。でも、マレーシアをはじめとする東南アジアのジャングルの様子は、同じ熱帯雨林でもそれとはずいぶん異なっています。
 東南アジアのジャングルでは、鳥やヒョウなんてまぁなかなか見られません。その理由の一つは、木がものすごく高いからです。30〜40メートルはあたり前、中には80メートルを超える巨木だってあります。これは、赤道に近くて、強い風があまり吹かないせいです。台風やハリケーンの心配がないのですくすく育つんです。80メートルの高さの木といったら20階建てのビル以上の高さですから、すごいでしょ? だから、首が痛くなるほど上を見上げないと、葉っぱも見えません。間伐もしていないのに横枝がないのも、東南アジアの熱帯雨林の特徴の一つです。鳥や動物たちは葉っぱのある上の方にいるので、当然、滅多に見られないのです。もちろん、生き物がいる気配は濃厚に感じられますけどね。

写真2
マレーシアのジャングル(写真提供:足立直樹)

 僕が初めてマレーシアの森を訪れたときには、やはり木の高さに感動しましたね。電信柱みたいな真っ直ぐな木が高く伸びている様子は、見ていて気持ちいいですよ。日向はすごく暑いんですけれど、森の中はひんやりしています。湿度が高いので歩くとすぐにじっとり汗ばみますが、木陰で座っているとすぐに涼しく感じます。地面は腐葉土の層がなく、粘土質です。熱帯雨林では、葉っぱが落ちてもすぐにシロアリなどの虫に食べられ分解されるのです。数ヶ月か、早いと数週間で分解されてしまうため、腐葉土の層はできません。だから雨が降れば、すぐに表土が流れてドロドロになります。日本の山とはずいぶん違います。
世界に類を見ない「生物多様性」の豊かさ
 マレーシアでは一年を通して気候の変化が少ないのですが、日本の夏と冬にそれぞれ別向きのモンスーンが吹きます。この年に二度の季節風が、マレー半島の東側と西側に大量の雨をもたらします。平均気温は25℃ぐらいで、年間を通しても最低気温が18℃を下回ることは滅多にありません。雨が多くて寒くならない状態が続くので、植物にとっては一番ハッピーな状況。それがマレーシアの熱帯雨林です。
 地球上の熱帯雨林は、中南米と東南アジア、そしてアフリカにあります。その合計面積は全陸地面積の約7%に過ぎないのですが、そこには地球上の生物のおよそ半分の種類が生息していると言われています。特に東南アジアの熱帯雨林は生物多様性がものすごく高いと言われます。熱帯には温帯や冷帯の森と違って「ブナの林」とか「アカマツの林」と言うような単一の樹種からなる林はありません。とにかくいろんな種類の木が生えているんです。僕たちが調査していたマレー半島の50ヘクタール の森に、一体何種類ぐらいの木が生えていたと思いますか? 基本的に森を構成する樹種の組成は、北へ行くほど単純になります。同じ広さで考えた場合、日本の森では100種類ぐらい、もっと北の地域だとせいぜい数十種類ぐらいでしょう。それがマレーシアでは、なんと800種類以上の木があったんです。ボルネオで同じように調査をしているチームによると、そこでは同じ50ヘクタールで1000種類を超えていたそうです。

写真3
マレーシアの森(左上) ラフレシア(右上) ショウガの一種(左下) シロアリのコロニー(右下) (写真提供:足立直樹)

 東南アジアの熱帯雨林の多様性には驚かされることばかりです。例えば、調査した800数十種の木が森のどこに生えているかを調べたところ、中には50ヘクタールの森に1本とか2本しかない木もありました。一体どうやって受粉しているんだろうって思いますよね? 周りがみんな同じ種類の木だったらいいのですが、50ヘクタールに1本や2本では、同じ種類同士が偶然に隣り合うチャンスはすごく低いですよね。だから、熱帯雨林の植物には風媒より虫媒や鳥媒が多いんです。コウモリが媒介して受粉する場合もあるんですよ。ただし、自分のところに蜜を吸いにきてくれた虫にはまた別の同じ種類の木に行ってもらわないといけない。そのために蜜を吸ってくれる虫と植物の間で「共進化」というお互いに依存する特殊化をしたりしています。1対1に近い形でね。それを生き物たちはお互いの進化の中で育んできた。ほんとすごいシステムでしょう? なんでそんなことができるのか不思議でしかたありません。
 そして、そんな生物多様性から僕たち人間も沢山の恵みを受けています。食料や木材、薬などに利用してきましたが、まだまだ全貌はわかりません。たとえば最近では、ボルネオでエイズの特効薬になるかもしれない植物が見つかっています。森には将来、私たちの生活に役立つ宝物がまだまだ秘められているのです。
わずか100年でマレーシアの半分の森が消失
 ところが現在、東南アジアの熱帯雨林は消失の危機に瀕しています。たとえばマレーシアは、この100年間で森林面積が半分に激減しました。100年前にはほぼ全土が森だったのにですよ。マレーシアの面積は33万平方キロで、日本よりちょっと小さいぐらいです。それが半分になってしまったと考えるとものすごいスピードです。しかも、東南アジア諸国の中ではマレーシアはまだいい方で、フィリピンでは場所によっては森林率が10%近くまで減っている。愕然としますよね。しかも、フィリピンの10%にまで落ちた理由は明らかに日本にあったりするんです。
熱帯雨林を破壊する原因は大きく3つあります。まず一つが森林伐採。80年代後半から90年代までは、横枝がなく真っ直ぐな東南アジアの木々は加工しやすいということで、どんどん伐られてしまいました。そして二番目が焼畑です。でも僕は、焼畑を悪者にするのはおかしいと思っています。焼畑は今まで何千年も続いてきた農業スタイルで、実は持続可能なのです。ところが最近は「焼畑」と言いながら、地力を使い切ってしまうようなエセ焼畑もでてきて、これが問題なのです。伝統的な焼き畑まで目の敵にすることはありません。そして三つ目がプランテーションの開発で、現在はこれが一番大きい問題になっています。特にマレーシアやインドネシアではパームオイルのためのプランテーションが加速化し、森林破壊の大きな原因になっています。アブラヤシという西アフリカ産のヤシを植えている畑なのですが、それだけでマレーシアの国土面積のなんと11%を占めています。たった1種類の作物で、ですよ。シンガポールからクアラルンプールまで約400キロなのですが、高速道路の脇にはずーっとパームオイルのプランテーションが続くという異常な光景が広がっています。パームオイルは、日本でも食べ物や石けんの原料としてたくさん使われています。マーガリンやアイスクリーム、お菓子やラーメンを揚げる油もそうです。決して私たちと無関係ではないんです。

写真4
パームオイルのプランテーション(写真提供:足立直樹)

 このプランテーションを作るために熱帯雨林の森をつぶした結果、一番困っているのがゾウやトラなどの大型動物です。彼らは体が大きいだけに広い場所が必要です。昔は自由に森から森へと移動していたのですが、もうそれが出来ません。その結果、畑を荒らしたり、人間の家を襲ったりして問題になっています。ゾウやトラなど大型動物の数が減れば生態系のバランスが崩れていろんな動植物がいなくなってしまう恐れもあります。
 たった100年間でマレーシアの森林が50%近く減ったというような急激な変化は、自然界では有り得ないことです。これからどんな影響が出てくるのかは誰にもわかりません。さらに地球温暖化の影響も出てきます。たとえば東南アジア一帯に多いフタバガキ科の木は、何年かに一度一斉に花を咲かせます。最近の研究の結果、このフタバガキの仲間は18℃以下の低温が数日続くとそれがきっかけになって花を咲かせるらしいことがわかりました。となると、温暖化でこの地域の気温がわずか1〜2℃上がれば、もう花をつけることはなくなり、次世代は育たないかもしれません。今はまだなんとか、多様な熱帯雨林が少しは残っています。でも、ひょっとしたらこの世代はもう次の世代を残せないかもしれない。これが最後の世代になってしまうかもしれないのです。森林の少子高齢化です。
生物多様性を守るために今、私たちにできること
 熱帯雨林の生物多様性は豊かに見えるけれども、いったん失われると復活するのにものすごく時間がかかります。人間の手で復活させることは難しい。だからこそ、まずは伐らないようにするのが基本だと思います。実は、僕が企業と仕事をしようと思った理由はここにあります。森を守るというアクションよりも森に影響を与える企業側を変えるというアクションの方が効果が大きいのではないかと考えたからです。「企業なんてポーズだけだ」と言う人もいますが、とても真剣に環境のことを考えている会社も増えてきました。 
ところがそれに対して、実は普通の生活者の方が鈍いんじゃないかと思うんですよね。大変な努力をしてすごく頑張っている企業があるのに、生活者はそのへんには鈍感で、「きれいな方がいい」「便利な方がいい」。今だ一番多いのは「安い方がいい」という考えです。ですから、僕が今一番力を入れているのは、きちんとやっている企業が応援される、評価される流れを作るということです。僕たち生活者が企業を見極めて、きちんとやっている企業の製品を買うことでその企業を支持し、そこが儲かるようになっていけば、その流れが強まっていくでしょう。「私だけがやってもなぁ」と思う人もいるでしょう。確かに、一人ができることはわずかです。全体の1億分の1とか、60億分の1とかですからね。だけれど、その1億人も60億人も、結局一人ひとりの積み重ねでしかない。そう考えるとやはり一人ひとりが考え、行動していくしかないと思います。だから、一人ひとりががんばっている企業を選ぶこと、応援することが大切なんです。

写真5

 森の生物多様性を守るために何かできることはないかと聞かれたら、僕はもう一度自分たちの気候風土に根ざした暮らし方を見直すことを提案します。昔ながらの暮らしは手間はかかるかもしれないけれど、けっこう合理的だったりします。例えば日本はすごく湿気が多い。そんな気候風土での生活は、湿気との戦いです。だからこそ、日本の木造家屋は夏には全部開放して風が通るような造りになっていたわけだし、お弁当にも抗菌効果のある梅干しを入れたり、おにぎりは笹の葉でくるんだりしていたわけです。昔の人は科学的な理由は知らなかっただろうけれど、経験として知っていたんでしょうね。 
 日本人は好奇心が旺盛で、いろんな文化を楽しんでいますよね。それはそれでいいと思うんです。だけれど、自分の根っこは何なのかということを、僕たちはもうちょっと考えた方がいい。そして、同じような気候風土や食文化で繋がっているアジアの国々と、お互いの知恵をうまく共有していければいいなぁと思います。

あだち・なおき Dr.Adachi,Naoki
サステナビリティ・プランナー。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程、博士課程修了。植物生態学で博士号を取得し、1995年から国立環境研究所で熱帯林の研究に従事。1999年から3年間、マレーシア森林研究所で現地の熱帯雨林の調査にあたる。帰国後はコンサルタントとして独立し、企業と力を合わせて持続可能な社会を作るシステムづくりに取り組む日々。『いきものがたり』(ダイヤモンド社)では熱帯雨林における生物多様性に関する著述も。

株式会社レスポンスアビリティ
http://www.responseability.jp/

足立直樹さんのブログ 「サステナラボ」
http://suslab.seesaa.net/